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師長がスタッフを守るとき

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看護師の特殊性

 同期に言われて初めて気が付きましたが、看護師は他の医療スタッフとは少し違う所属形態をとっています。医師は医局に属しており、診療科単位で動きます。例えば呼吸器内科なら、呼吸器内科の患者さんがいる病棟どこにでも自分の仕事があるわけです。たいてい一つの病棟に集約されていますが、それでも患者さんがいる病棟にはどこにでも診察に行きます。リハビリのセラピストや栄養士も特定の病棟をもちません。事務クラークや薬剤師は病院によっては病棟付けですが、病棟運営に大きな影響力をもつかというと違います。一方看護師は、1つの病棟に属し、自分の所属病棟がきっちり決まっていて、病棟を守っているといっても過言ではありません。

師長の役割

 ザクっとした表現で言うと、とくに師長は病棟の患者と看護師に責任を持ち、病棟を守っています。師長のキャラクターが病棟の雰囲気に大きな影響を及ぼすことは明白です。

 今まで数えきれない看護師たちが「師長さんに救われた」というのを聞いてきました。最近も教え子に道でばったり出くわして、「師長さんのことがみんな大好きだから部長にならないでほしい」と言っていました(笑)。針刺し事故の時に師長さんが患者への採血の同意をとり、HIV検査をし、内服を手配し、親身になって声をかけ続け、しばらく休暇をとらせてくれたこと。(大昔、HIV感染症は今より恐怖感の強い病気だったのです)。毎朝出勤したら、すべてのベッドサイドを周って環境整備しながら患者さんに声をかけて、カルテを読んでいないのに一番患者さんのことを知っていたこと。文句もよく聞くけれど、部下が上司の文句を言ったり、上司が部下の愚痴を言うのは世の常で、みんな相思相愛のはずないので、相手を不愉快にしないところでストレス発散しておけばいいと思うのですが、いつも私に語ってくれる師長への愛情は、ご本人に伝えたら?と思うことがあります。師長さんたちは、自分が信頼され、自分から後輩が学んでいることを実感しているのかな…。(私の友人は実感していないから私が褒めてあげてるの)

師長がスタッフを守るとき

 大阪には電車の中や街中で大阪府警の「痴漢、アカン、助けなアカン」というポスターが掲示されています。あれをみると、いつも思い出すエピソードがあります。あの時ほど、師長はいつもスタッフを守ってくれているんだと感じたことはありません。

 意識障害のある患者さんが入院されたときでした。もともと亭主関白な方だったのか、面会に来る女性は皆さん尽くすタイプでよく怒鳴られていました。病気の影響もあり自分で動けないもどかしさや、食事制限の辛さも重なり、看護師に暴力を振るうようになりました。そういうことは時折あるので、看護師なら誰しも経験があるのではないでしょうか。でもどんどんエスカレートして血圧測定に行くなり顔を殴られるような事態となり、後輩には対処できないので中堅以上の看護師で対応していたのです。毎回医師に報告し相談しますが疾患の影響もあるため治療の変更はなく、通りすがりのドクターたちも「大変やな~」と言って歩いていってしまう毎日が続きました。

 そんなある日、病棟のドクターカンファレンスが終わったときに出席していた師長さんが発言しました。「ちょっといいですか。先生たち、看護師が殴られるのを当たり前だと思わんといてください。患者さんをみんなでみてるんやないの?なんで何もしないで通り過ぎていくの!?(怒)」。師長として当たり前の発言と言われればそうですが、診療科ドクター勢揃いのドクターカンファレンスで、看護師は師長と私と数人だけだった気がします。殴られたけど、守られている気がしてものすごく嬉しかった。

 あの時、師長さんは自分の責務を果たしただけだったかもしれない。でも昔から、最大の悲劇は悪人の悪事ではなく善人の沈黙と言われます。沈黙は、暴力の影に隠れた同罪者であるとも言われてきました。患者さんは病気の症状が出ているので悪人ではないけれど、辛い思いをしている同僚を黙認する医療者の姿勢について、師長さんは毅然とものを申しました。その後治療薬が見直されて患者さんは少し落ち着き、看護師が殴られそうになってたら医師もかけより、いつもの病棟にもどりました。師長がスタッフを守ったお話。

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