看護師と看護教員にむけてスライド作成の基本をご紹介します。興味があっても自分で調べる時間がない方のための超基本覚書です。
構成
スライド作成において構成は命です。話の流れが理解しやすく整っていれば、勉強会や講義は成功したも同然です。なぜなら参加者は素敵なスライドを見に来るのではなく、話を聴きに来るからです。裏を返せば、整った構成で上手に話せるのならスライド枚数を減らせるということです。
Appleの創始者スティーブ・ジョブズのプレゼンはスライドに文字がほぼありませんでしたが、構成に何日もかけていたというのは有名な話です。そのくらい、人に何かを伝える勉強会や講義では、スライドの構成が重要なのです。
スライド構成にはいくつかのひな形がありますので、自分の話す内容や参加者の特徴に合わせて使い分けてみましょう。以下に看護系に合いそうな例を出します。
三段構成
- 所要時間:1時間や90分といった長時間の講義向き
- 対象者と内容:学生向け授業、市民公開講座など教育場面
- 特徴:基本中の基本、体系的に情報を理解しやすい構成
話の導入であるため、参加者の興味をひく質問や問題提起をするなど工夫し、本論へつなげます。
例:「退院支援の重要性」について話をもちだします。
序論の導入を受けて、伝えたい内容を詳しく説明します。
退院支援の具体的な手順や成功事例を紹介します。
話の要点をまとめます。
退院支援の効果や今後の課題についてまとめます。
SDS法
- 所要時間:10分などの短時間説明向き
- 対象者と内容:実習中の学生指導や、短い患者教育など
- 特徴:問題解決に焦点を当てた構成。論理的な展開になるため、重要点を強調し印象に残したい場面向き。
全体の概要を最初に説明します。
例:「退院支援の流れとその重要性を説明します」
具体的な事例やデータを用いて話の詳細を説明します。
具体的には~、と話をつなぎ、退院支援の各ステップや看護師の役割を詳しく解説します。
再度要約を述べ、聞き手に印象を残します。
「退院支援は患者の生活の質を向上させる重要なプロセスです」と締めくくります。
PREP法
- 所要時間:10分から1時間程度までの講義向き
- 対象者と内容:学生・看護師との報告や質疑応答、短い患者教育など
- 特徴:論理的で明確なコミュニケーションに効果的、感情表現に不向きなためストーリー性のある講義には適さない
プレゼンの冒頭で、主張を明確に述べます。
例:「退院支援は看護の重要な役割です」と主張します。
主張を支える理由を説明します。
なぜなら~、その理由として~、と続け、退院支援が重要な理由を示します。
具体的な事例を示して、理由を裏付けます。
具体的には~と、成功した退院支援の事例を紹介します。
最後に再度主張を述べ、聞き手に印象を残します。
「退院支援は患者の自立を促進します」と締めくくります。
DESC法
- 所要時間:90分など長時間講義向き。
- 対象者と内容:学生・看護師向け講義、市民公開講座、患者教育など
- 特徴:客観的な背景描写が入るので話に説得力をもたせやすく参加者の感情に訴求したり行動変容を促せる。ビジネスから日常会話まで汎用性が高い
状況を具体的に描写します。
例:「退院前の患者の不安な様子」を描写して紹介します。
自分の感情や考えを表現します。
「患者の不安を軽減することが重要です」と感情を述べます。
具体的な行動を提案します。
「そのために、退院前に患者と家族に対して教育を行います」と具体策を示します。
その行動の結果を説明します。
「これにより、患者は安心して退院できます」と結果を述べます。
デザインの基本
看護師の本業は看護なので、スライド構成が整い根拠に基づいた口頭説明ができればデザインはこだわらなくていいと私は思います。一方、教員の本業は教育ですので、学生の理解を促進する技術としてスライドデザインの基本を理解し活用することは必要であると感じます。
私はデザイナーではないので以下に示す基本は一般的に知られた内容です。今後人口減少に伴い一人二役以上の仕事をすることが想定されますので、看護師でも教員でも知っておけば役立つ基礎知識を挙げておきます。
すでに訪問看護ステーションや小規模多機能型居宅介護など臨床看護から組織運営まで全て行う人にとっては、デジタルパンフレットやWebサイトも自分で作る時代になりました。デザインの基礎知識があれば時短だね!
学生教育も患者教育も情報伝達方法がデジタル化し、視覚に訴えるものに大きくシフトしています。Webデザインは特徴があるので、専門雑誌も時々みてみよう!
フォントの基本
フォントとは文字のことで種類があります。スライドは本来視覚に訴えるものなので「読むための」長い文章を詰め込むべきではなく(どの口がそんなこと言うのかと反省しかり)、「見やすい」フォントを使用することが求められます。
スライドやポスター向き条件
- 視認性の高いフォント:見やすい
- 判読性の高いフォント:誤読しにくい
- 太字にしても視認性と判読性が良いものを選ぶ
- ユニバーサルデザインを意識する
- メイリオ/游ゴシック/UDデジタル教科書体/ヒラギノ角ゴシック/Segoe UIなど
レポートや論文向き条件
- 可読性の高いフォント:読みやすい(細いフォントが適している)
- 判読性の高いフォント:誤読しにくい
- ユニバーサルデザインを意識する
- 游明朝/ヒラギノ明朝/Noto serif CJK JPなど
フォントの種類はWindowsかMacによりますし、無償・有償にもよります。重要な条件は「見やすい」ことなのか「読みやすい」ことなのか意識してフォントを選んでみてください。
UDデジタル教科書体は、視力に障害がある「ロービジョン」や、文字の読み書きに困難がある「ディスレクシア」を持つ人にも読みやすいように設計されたユニバーサルデザインのフォントです。 デジタル教科書をはじめとしたICT教育の現場で効果的に使用されています。
内容を強調するときに太字を使う方は、太字対応のフォントを選択しましょう。
色の基本
- 色はそれぞれイメージを持っており私たちに心理効果を与えます
- コントラストはスライドの視認性に影響します
内容を強調するときは赤字にするのか黒の太字にするのかなど、強調色と方法を統一しましょう。
色のイメージと反対の内容を書くと、見ている人の明視性(見て理解すること)が低くなり混乱します。
PowerPointには様々なスタイルが用意されていますが、清潔援助の授業で背景色やタイトルラインにビタミンカラーを使うと、なんとなく落ち着きません。
青をつかうと清潔イメージに合うのは見てわかるとおりです。
このように、スライドに使用するカラーは実は強いイメージを発しており、一般的なイメージとかけ離れると内容理解の邪魔になることを知っておきましょう。
背景と文字のコントラストが悪いと視認性が低くなり、見るのも疲れてしまいます。黒文字を使うか白文字を使うかにより背景色を選択し、その色のもつイメージが内容とあっているかも確認してください。
背景と文字の明暗をしっかり分けてコントラストをつけると視認性は高くなり、疲れずに見続けることができます。いづれにせよ、黄色は暗くするとオレンジになりイメージも変わるので使いにくい色といえます。
図解の基本
図解とは図を用いてわかりやすく内容を説明することです。スライドは見て理解する側面が非常に大きいため、図解は適切な方法です。
図解には「見せ方」と「使い方」の基本形があります。時系列は左から右へ、階層は下から上へなど図の位置に意味を持たせる方法がいくつかありますので、興味のある方は図解の書籍を読んでみてください。基本的にPowerPointのスマートアートはこれに対応していますので、困ることはありません。
以下のスライドはPowerPointに標準装備されているデザインです。病棟の退院指導の結果報告ですが、内容は同じです。
矢印が入るだけで成功したんだな!と理解できるから不思議です。
図はわざわざ作らなくてもテンプレートがあるので、それを配置するだけで素人ながらにも「伝わる」レベルになります。これができれば文字数が減りスライド枚数削減につながりますし、AIに図の作成を任せればさらにスライド作成時間は削減できます。
看護師の勉強会や報告会は競合がいるビジネスプレゼンではないので、洗練されたデザインは二の次です。こだわっても巨額の利益を生むわけではないので、最優先すべきは講師の話が一目で伝わるスライドを時短で作ることだと思います。ちなみにこのスライドの配色はデフォルトの色が沢山あって強調点がわかりにくく気が散るので、視認性や明視性の点では△です。
スライド作成時間の削減
スライド作成時間を減らすには、2つの方法があります。
スライド作成技術を磨く
- そんなこと本業ではないので、得意な人かAIに任せる
- スライド作成を我流ではなく基本技術で行う(これが一番速い)
スライド枚数を減らす
- 文章を箇条書きにして文字数を減らす
- 文章を図解にする
- 自分の使いまわしテンプレートを作っておく(看護師は専門領域が変わっても転用可能な内容が多い)
頑張らなくていい方法を見つけて、看護に集中できることを祈っています。